次世代ワクチンとして期待される経鼻投与型ワクチンに必要な粘膜アジュバントの開発

センター長

相川 幸彦

【研究テーマ名】

経鼻投与ワクチンの実用化とウイルス感染の予防に向けた研究
(高齢者に有効なワクチンの開発)

【背景】

ワクチンは病原体の感染や感染による症状の重篤化を防ぐために最も有効な手段として世界中で用いられています。しかしながら、現行の注射型ワクチンでは、病原体を認識する免疫グロブリン(IgG)抗体が血中に誘導されるものの、感染防御に重要な役割を果たす分泌型IgA抗体は病原体の侵入部位となる鼻腔等の粘膜上に誘導されません。従って、注射型のワクチンは、重症化の予防効果は期待できますが、感染防御効果は大きく期待できません。一方、経鼻粘膜投与型ワクチンは、血液中のIgG抗体に加え、粘膜にも分泌型IgA抗体を誘導できることから、感染の防御と重篤化予防の二面性を兼ね備える次世代ワクチンとして期待されています。また、IgA抗体は交叉反応性が高く、様々な病原体に対応できるとされています。しかしながら、粘膜ワクチンによる効率的な免疫誘導には、免疫活性化因子“アジュバント”が必須であり、安全で有効な新規粘膜アジュバントの開発が必要とされています。

【概要】

本研究では、これまでの研究で見出した複数のアジュバント候補化合物を基に、実用化に向けた性能評価、安全性及び製剤学的検討、詳細な作用機序の解析を進めています。
有効性面においては、マウスを用いた実験において、そのものだけの経鼻投与では免疫が誘導できないインフルエンザワクチン抗原に、粘膜アジュバント候補化合物を併用することにより、IgAやIgG抗体など、目的とする免疫が誘導されることを確認しています。並行して、安全性データ、製品化に必要となる合成法、分析法、純度、安定性、等のCMC (Chemistry, Manufacturing and Control)に係る基礎データの収集を行い、開発における課題の抽出と解決策の検討を進め、更に、インフルエンザ以外の感染症の抗原を用いた場合のアジュバント性能並びに有効性の詳細な分析を実施しているところです。
新規粘膜アジュバントの使用により、少量の抗原量で製造可能な経鼻ワクチンが実用化できれば、感染そのものの防御といった有効性を示すワクチンを短期間により多く製造し、医療現場に供給できることが期待されます。これは、新型コロナウイルスの出現などにより、更にその重要性が高まっているパンデミック対策という点においても有益な手段になると考えています。
今後、インフルエンザをはじめとする様々な感染症に有効な経鼻粘膜投与型ワクチン用アジュバントとしての有用性を示し、社会実装に向け、企業による開発へと繋げたいと考えています。

〈経鼻ワクチンの特徴〉
・血中のIgG抗体に加え、粘膜へ分泌型IgA抗体が誘導できる。
・感染自体を防ぐ。
・交叉反応性が高い。
・従来の注射と違い、鼻腔内にスプレーを吹きかけるだけなので、痛みがない。
・注射器を用いないため、医療スタッフの整っていない環境でも使い易い。

【研究成果の公表】

〇学会・シンポジウム・セミナー等イベントでの発表 

 関西バイオビジネスマッチング2023, 2024年1月1日(月)~2月29日(木),オンライン開催
 T-Messe2023富山県ものづくり総合見本市,2023年10月26日(木)~28日(土),富山産業展示館(富山県富山市)
 BioJapan2023,2023年10月11日(水)~13日(金),パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)

〇テレビ・新聞・書籍・Web等各種メディアへの投稿、報道

 富山県ニュースリリース(発表:2023年4月7日)「経鼻投与型ワクチンに必要な新しい粘膜アジュバントとなる化合物の発見と有効性を示す研究開発成果の特許出願について

〇特許関係

 特許第6977206号 「自然免疫を活性化する粘膜ワクチン用アジュバント」

◆用語解説

IgA:Immunoglobulin A;免疫グロブリンAとは、免疫グロブリンの一種であり、2つの重鎖(α鎖)と2つの軽鎖(κ鎖およびλ鎖)から構成される。2量体IgA(分泌型IgA、SIgA)は粘膜免疫の主役であり、消化管や呼吸器における免疫機構の最前線として機能している。
IgG:Immunoglobulin G;免疫グロブリンGは、抗体のクラスの1つで、2つの重鎖γと2つの軽鎖から構成される。ヒトの血清中の抗体の75%を占め、体中の血液、組織液に存在する最も一般的な抗体の種類である。
交叉反応性:免疫原とは異なる抗原と抗体との間の反応。

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