生薬甘草の成分がメタボリックシンドロームを改善

教授

長井 良憲

【研究テーマ名】

免疫代謝の調節による生活習慣病の予防研究(イソリクイリチゲニンと関連物質による糖尿病予防効果)

【研究のポイント】

  • ・漢方薬に含まれる生薬甘草の成分「イソリクイリチゲニン」が、メタボリックシンドロームを改善するメカニズムを解明しました。
  • ・イソリクイリチゲニンは、生薬甘草に微量に含まれるフラボノイドの一種です。
  • ・イソリクイリチゲニンを摂取すると、腸内の善玉菌が増え、腸内のバリア機能を向上させ、メタボリックシンドロームの症状を改善します。
  • ・イソリクイリチゲニンは、肥満、内臓脂肪炎症、インスリン抵抗性を改善します。
  • ・イソリクイリチゲニンのこれらの作用は、マウスを使った実験によって解明されました。

【背景と経緯】

近年、食生活の欧米化などにより、日本でも肥満を中心とするメタボリックシンドロームや糖尿病が増加しており、大きな社会問題となっています。これまでの多くの研究により、メタボリックシンドロームの発症には、内臓脂肪組織における慢性的な炎症反応が深く関与することが分かってきました。また、メタボリックシンドロームの発症には、腸に常在する腸内細菌叢の多様性の減少が関係していることが明らかになっています。さらに、メタボリックシンドロームに対して良い作用または悪い作用をする善玉または悪玉の腸内細菌の存在が報告されています。このような背景から、腸内細菌を調整することで、メタボリックシンドロームを予防または治療する方法の開発について、関心が集まっています。
これまでに本研究グループは、生薬甘草の成分であるイソリクイリチゲニンが、内臓脂肪組織の炎症反応や線維化を抑制することで、メタボリックシンドロームの症状を改善することを報告してきました。一方で、イソリクイリチゲニンが腸内細菌叢を調整する作用については未解明でした。

【研究内容】

本研究グループは、高脂肪食を与えたマウスにイソリクイリチゲニンを摂取させ、腸内細菌の種類を詳細に検討しました。その結果、高脂肪食を与えたマウスでは、肥満菌として知られるファーミキューティス門の細菌が増加し、痩せ菌として知られるバクテロイデス門の細菌が減少していましたが、イソリクイリチゲニンを摂取させるとファーミキューティス門の細菌が減少し、バクテロイデス門の細菌が増加することが分かりました。さらに次世代シーケンサーを用いて詳細に検討したところ、イソリクイリチゲニンの摂取により、メタボリックシンドロームに改善作用を示す腸内細菌種アッカマンシア菌とパラバクテロイデス菌が著しく増加することが分かりました。
高脂肪食を与えたマウスでは、大腸の上皮細胞同士の結合、すなわちバリア機能が破壊され、それにより腸内細菌の産物が血管を通して全身に散布され、全身の慢性炎症が引き起こされることが分かっています。この全身の慢性炎症が内臓脂肪組織の炎症やインスリンが効かなくなる、すなわちインスリン抵抗性の原因と考えられています。イソリクイリチゲニンを摂取したマウスでは、前述の腸内細菌種を著しく増加させることで、上皮細胞のムチン産生を増やすと共に、上皮細胞同士の結合を強化するタンパク質クローディンの発現を増やし、バリア機能の破壊を改善することが分かりました。この作用により、イソリクイリチゲニンは内臓脂肪組織炎症やインスリン抵抗性を改善すると考えられました(図1)。
さらにイソリクイリチゲニンを摂取したマウスの糞便を、高脂肪食を与えたマウスに移植する実験を行いました。その結果、移植を受けたマウスでは肥満や内臓脂肪組織炎症、インスリン抵抗性が改善しました。すなわち、イソリクイリチゲニン摂取マウスの糞便に含まれる腸内細菌がその抗肥満作用などの本体であることを証明しました。

図1 イソリクイリチゲニンによる腸内細菌叢調整作用と腸管上皮細胞の破綻改善作用

【今後の展開】

本研究により、甘草成分イソリクイリチゲニンが善玉腸内細菌を著しく増加させることで、抗メタボリックシンドローム作用を発揮することが明らかになりました。今後、イソリクイリチゲニンによる腸内細菌調整作用の詳しいメカニズムを調べることで、新たなメタボリックシンドローム治療薬や機能性表示食品の開発につながることが期待されます。

【研究成果の公表】

○論文発表

Ishibashi R, Furusawa Y, Honda H, Watanabe Y, Fujisaka S, Nishikawa M, Ikushiro S, Kurihara S, Tabuchi Y, Tobe K, Takatsu K, Nagai Y. Isoliquiritigenin Attenuates Adipose Tissue Inflammation and Metabolic Syndrome by Modifying Gut Bacteria Composition in Mice. Mol Nutr Food Res . 2022 May;66(10):e2101119. doi: 10.1002/mnfr.202101119. Epub 2022 Mar 28. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35297188/

Usui-Kawanishi K, Kani K, Karasawa T, Honda H, Takayama N, Takahashi M, Takatsu K, Nagai Y. Isoliquiritigenin inhibits NLRP3 inflammasome activation with CAPS mutations by suppressing caspase-1 activation and mutated NLRP3 aggregation. Genes Cells. 2024 Feb 17. doi: 10.1111/gtc.13108. https://doi.org/10.1111/gtc.13108

○学会・シンポジウム・セミナー等でのイベントでの発表
  • 第50回日本免疫学会学術集会2021.12
  • 第65回日本糖尿病学会年次学術集会2022.5
  • 第30回日本生化学会北陸支部大会2022.6(学生ベスト発表賞優秀賞受賞)
  • 第43回日本炎症・再生医学会2022.7
  • 第27回日本フードファクター学会学術集会2022.10
  • BioJapan2022.10
  • 関西バイオビジネスマッチング2023.01
  • BioJapan2023.10
  • T-Messe2023富山ものづくり総合見本市2023.10 
 
○テレビ・新聞・書籍・Web等各種メディアへの投稿、報道
  • 北日本新聞「甘草成分で善玉菌アップ 血糖値改善の仕組み解明」2022.3.25(金)
  • 富山新聞「生薬・甘草の成分 メタボ改善に効果 県立大研究」2022.3.25(金)
  • 北日本新聞「産学官で創薬に挑戦」2022.5.23(月)

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