「世界初」植物から新たな触媒を開発 ~富山発の環境調和型有機分子触媒~

准教授

日比 慎

【研究テーマ名】

植物由来の有機分子触媒の開発と医薬品合成

【研究のポイント】

・この「環境調和型有機分子触媒」は、世界初の植物由来の多糖類を主成分とする不斉触媒(※1)です。
・この「環境調和型有機分子触媒」は、従来の貴金属、レアメタルなどを含む化学触媒による医薬品製造と比較して、この「環境調和型有機分子触媒」は、低コストで安全性が高く環境負荷物質の排出がない革新的な触媒です。

※1 植物由来の多糖類自体が不斉触媒となることを見出したのは世界初/協和ファーマケミカル調べ(2022年6月1日時点の公開情報に基づく)

【背景と経緯】

医薬品となる化合物では、鏡像異性体間で薬効、毒性、体内動態などが異なることが多く、たいていの場合、いずれか一方の鏡像異性体のみを供給することが求められます。そのため、パラジウムなどの金属元素に複雑な構造の有機化合物(配位子)を結合させた不斉触媒により、いずれか一方の鏡像異性体のみを合成することがあります。金属の使用は、残留した場合の人体への毒性の懸念や、リサイクルが難しい、貴重な資源であるにもかかわらず、多くは廃棄物となっているといった課題があります。これを解決するための研究成果の一つが2021年のノーベル化学賞の基となった「有機分子触媒」です。有機分子触媒は、有害な金属を含まないアミノ酸など比較的単純な分子から構成されるため、持続可能な開発目標(SDGs)にマッチするものとして注目されています。

協和ファーマケミカル株式会社(以下協和ファーマケミカル)では、医薬品中間体の製法開発を進めるなかで、これまでに誰も見出していなかった「植物の乾燥粉末そのものが有機分子触媒として作用する現象」を発見し、実際に大豆など植物成分を用いて医薬品の中間体を試験生産することで、実用的な触媒として利用可能であることを確認しました。(※2) 一方で、触媒成分が未解明であることや、特定の化合物の製造にしか使用できないなどの課題があったため、植物や微生物が産出する生体触媒の分野に強みを持つ富山県立大学との共同研究を開始しました。

図1. 医薬品製造に「環境調和型有機分子触媒」を用いるメリット

※2協和ファーマケミカル株式会社(富山県高岡市長慶寺530番地、社長 櫻井隆)の本触媒の関連発表およびこれまでの取り組みは下記HPを参照ください。

https://www.kyowa-pharma.co.jp/news/  および
https://www.kyowa-pharma.co.jp/business/genyaku-jutaku/

【研究内容】

この共同研究は、産官学連携の取り組みである「くすりのシリコンバレーTOYAMA創造コンソーシアム」による支援を受けて平成30年(2018年)より実施され、現在も継続されています。富山県立大学は協和ファーマケミカルから研究員一名を受入れるとともに、生物工学科と医薬品工学科という所属の壁を越えて複数の研究者が分野横断的に参画し、強固な産学連携の共同研究体制を構築しました。

初期の研究段階では、植物触媒として大豆由来物から抽出された水溶性の多糖類を使用していましたが、これをアルカリおよび酸で処理し低分子化することで、触媒活性を有する成分(多糖化合物、以下POMC)のみを取り出すことに成功しました。処理前に比べて分子の大きさは100分の1となり、質量当たりの触媒能力は2~3倍に向上しました。(図2参照) これにより、原薬などの有用化合物を、より少量の触媒で生産することが可能となります。

図2 低分子化による触媒能力の向上

今回調製に成功したPOMCは、環境負荷の低い水中で使用することが可能です。さらに、触媒機能が衰えることなく10回以上の繰り返し使用が可能であることも確認しています。(図3参照)


図3. 反応回数と変換率の経過
(触媒を10回繰り返し使用しても能力が低下していないことを示しています)

【今後の展開】

富山県立大学と協和ファーマケミカルは、2022年3月に本共同研究の成果である「環境調和型有機分子触媒」について共同で特許を出願しました。
今後、触媒の最小単位が明らかになれば、系統的な触媒のデザインが可能となり、基質や反応の適用範囲が広がるものと期待しています。
私たちが世界に先駆けて見出した触媒は、環境面、安全面で優れた性質を有するとともに、反応プロセスの最適化により生産性の向上も目指すものです。私たちは、外部の方々からの異なる視点からのアイディアも積極的に取り入れながら、糖鎖機能の解明と新たな触媒デザインの研究を継続します。この取り組みを通して、地球環境に配慮しながら、医薬品のみならず様々な分野で人々に役立つ、ものづくり技術を開発することで、SDGsの達成に貢献して参ります。

【研究成果の公表】

○学会・シンポジウム・セミナー等でのイベントでの発表

・日本プロセス化学会2022サマーシンポジウム(2022.6.30-7.1)
・BioJapan2022(2022.10.12-14)
・フォーラム富山「創薬」第56回研究会(2022.11.8)
・日本プロセス化学会2022ウインターシンポジウム(2022.12.2)
・関西バイオビジネスマッチング2022(2023.1.1-2.28)
・令和4年度 薬都創造コンソーシアム推進委員会(2023.2.24)
・BioJapan 2023 (2023.10.11-13) 
・T-Messe2023富山県ものづくり総合見本市(2023.10.26-28)
・関西バイオビジネスマッチング2023(2024.1.1-2.29)

 

○テレビ・新聞・書籍・Web等各種メディアへの投稿、報道

・北日本新聞「植物由来の触媒アピール 県立大・協和ファーマ 学会で成果発表」2022.7.1(金)

◆用語解説

有機分子触媒:水素・炭素・窒素・酸素・硫黄などの元素から構成され、金属元素を含まず、化学反応促進機能を有する物質の総称
多糖類:単糖(ブドウ糖、ガラクトース、マンノースなど)が10個以上結合した化合物の総称
鏡像異性体:化合物の立体構造が、右手と左手の様に互いに実像と鏡像の関係にある一対の化合物
不斉触媒:目的の鏡像異性体を優先的に生成する触媒。対して通常の触媒は、それぞれの鏡像異性体を1:1で生成する
医薬品中間体:医薬品に含まれる有効成分を原薬というが、その原薬を製造する途中段階で取得する重要な物質
SDGs:持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載の持続可能でよりよい世界を目指す国際目標

研究テーマに関心のある方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。:

お問い合わせ

お気軽にご相談ください