本邦の医療イノベーション創出に欠くことのできないものは、アカデミアにおける研究・開発、いわゆるアカデミア創薬である。アカデミア創薬は、現在、日本医療研究開発機構(AMED)支援の下、文部科学大臣が認定した「橋渡し研究支援機関」や厚生労働大臣が医療法に基づき承認した「臨床研究中核病院」を中心に盛んに行われるようになってきた。しかし、政府が求めているのは認証された施設のみでなく、アカデミアの医療機関(大学病院等)全体がその取組みを進めていくことである。すなわち、医薬品等の種(シーズ)の探索から非臨床試験、およびその後の臨床試験、特に製造販売承認申請に必要となる治験(医師主導治験)が実施できる体制を整備することは今や大学病院等の使命であり、避けて通れないと考えるべきなのである。各大学病院等は、自律的な治験実施の体制構築と稼働に向けた取り組みを行うことが必要不可欠であり、そのようなマインドセットが必要ではないだろうか。医療機関の施設の充実、治験を担当する医師等に係る教育・研修の充実及び治験を行う資質を有する医師等の確保、医療機関内の各関係部門の理解と協力の推進による治験実施体制の確立、治験を担当する医師を支援する治験コーディネーター(CRC)の育成及び研修修了者の活用、治験事務局機能の強化など、取り組むべきことは多い。目標を掲げて計画的に取組むことが必要である。
アカデミア創薬の特徴は高い基礎研究力を有すること。患者重視の発想でアンメットメディカルニーズ(希少疾患、難治性疾患)を積極的に対象とすること。医学部以外の学部(例えば工学部等)との異分野融合の共同研究が可能であること。また、これまでにない新しい臨床評価指標などの探索が可能であること等が挙げられる。このようなアカデミアならではの特徴を活かした研究・開発が、日本の医療イノベーション創出に繋がっていくことを忘れてはならない。