2022.11.12
二足目の草鞋

北海道大学病院 研究開発コーディネーター

杉田 修
【略歴等】
・サントリー㈱で非臨床開発に従事
 アストラゼネカ㈱に移り引き続き総括製造販売責任者として従事
・前 北海道大学教授(TR事業で医薬品開発に従事)

PMDAの対面助言の納期確認のため、今年もあと数か月となったことに気が付きました。今まで製剤を含めた医薬品の非臨床開発全般に係ってきましたが、そもそもの私の専門は薬物代謝/動態で、ひたすら実験動物を用いて実験に明け暮れた社会人生活をスタートしました。ある時、製剤部門への異動が打診されましたが、本人は何のことがわからないまま、私の実家は「製材屋」だと伝え、会社で改めて「製剤」をやる気はありませんと即答した次第です。翌日呼び出され「たまには他人の意見に沿うてみよ」と一喝され、以後「製剤」の草鞋も履くことになりました。

製剤は「物理的化学的性質」という分野が土台になり、酵素屋にとっては無機的な響きそのものでした。が、チームで処方設計を進めるうちに、体内動態、薬効発現や毒性兆候は製剤投与後の血漿中濃度が起点になるという当たり前のことに改めて気がつきました。つまり、薬理、動態、安全性はいずれも薬剤投与後の血漿中濃度の推移に対する生体反応で、それぞれは反応の評価法が違うだけだと・・。とすると製剤は溶解して吸収されたあと、さらに血漿濃度、薬理作用発現の原点、スタートボタンに相当するという理解に至り、妙に納得した記憶があります。これは、血漿中濃度は製剤が起点になることを厳密に理解しなかった私の不明であり、製剤に草鞋を履いて得た大事な財産の一つとなりました。

ただし、製剤は設計するだけでは意味がありません。多くの工業製品と同じで、設計を基に適切な製造や品質評価などが相まって初めて疾患に対して正しく向き合う医薬品になることも実製造に係った際に身に沁みて理解しました。振り返るに、「他人の意見に沿うてみよ」の一言は当時の私への引導でしたが、実は医薬品開発の見えなかった側面を気付かせてくれた大事な一言になりました。

(令和4年11月21日 執筆)

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