「くすりのシリコンバレーTOYAMA」創造コンソーシアム 研究評価委員
私はもともと農学がバックグラウンドであり、企業への就職後も、育種と呼ばれる新しい野菜の品種を作る研究をしていました。その後、30歳を迎える頃に上司の勧めもあり、医薬部門へ転向し、以来、約30年にわたって創薬に関わる仕事を続けてきました。
ところで、創薬の世界に身を転じてから、植物の育種との類似性を感じました。低い成功確率、商品化への長い道のりなども共通していますが、数多くの特性をひっくるめた形で製品をイメージし(創薬ではTarget Product Profileと呼ばれることが多い)、そのイメージに沿って、科学的に絞り込んだ候補を広げて、また絞り込んでいくプロセスなども類似していました。特性項目には評価しやすいものもあれば、費用や規模、あるいは時間が必要な評価項目もあり、効率と効果を意識した選抜プロセスが求められる点も共通していました。もちろん専門知識が異なるのでその点は苦労しましたが、概念自体は似ていたことから、それほど違和感なく製薬の世界に入ることができました。ということで、植物ブリーディング(育種)の経験者で創薬研究に興味のある方、ぜひ創薬の世界に飛び込んで、病気で苦しむ患者さんに薬を届けてみませんか。貴方のその経験がきっと活かされます!
閑話休題、富山くすりコンソです。
私はコンソ内の研究評価委員のメンバーとして、2021年より、大学をはじめとしたアカデミアの先生方が進める実用化支援プログラムテーマの進捗確認や評価を、産官学の‟産”の立場からさせていただいております。
この貴重な経験を通じて私が想うことをいくつか共有させていただきます。
まず、富山のアカデミア研究者は、とても真摯に意見に耳を傾けてくださる点について触れさせてください。これは、「くすりの富山」として製薬産業が集積しており普段より産業界との交流が盛んであることや、全国でも珍しい地域レベルで産官学が一体となり推進するこの「富山くすりコンソ」の取り組みが背景としてあるのだと思います。自らの研究には自信と誇りを持ちながらも、実用化に向けた応用研究に対しては、異なる専門性をもつ方々の意見を柔軟に取り入れようとする姿勢に、時に強く印象づけられます。この柔軟性は、企業側にとって特にアーリーステージのパートナリングでは重要な要素であることを、私自身も経験しております。
次に品質に関して。コンソで実用化支援プログラムに選ばれたテーマは、その時点で既にバリデーション(検証)とブラッシュアップ(洗練)がほぼ完了しています。これは、産官学それぞれの経験を持つメンバーで構成されるコンソの研究支援チームが、その選定の過程で単なる書類選考ではなく、データや研究戦略について、応募研究者とのディスカッションを経て、計画が練り上げられた状態でプログラムが採択され開始されるためです。これは製薬企業が共同研究公募・採択する際のプロセスそのもので、これを、官主導の、しかも(失礼・・・)県レベルのプロジェクトで実現されていることは、驚きですらありました。さすがは「くすりの富山」と言わざるを得ません。
最後に、グローバル製品の開発や上市に携わった際や、協働した仲間(米国)がその後ベンチャー企業で活躍している姿を傍で見て感じることでもありますが、彼らは実際には互いに信頼できる閉鎖的な小規模チームで動いているケースが多いように思います。ただ、その信頼は人的ネットワークを通じて出会う新たな人材が持つ実績と実力に基づくものであり、出身大学や地域などで括られる閉鎖性とは少し異なるように思います。
冒頭の育種と創薬の話に戻りますが、異なると感じた点があります。それは製品多様性の大小です。例えば野菜を例にとれば、育てる場所ごとに土も違えば降水量や気温も異なります。また、顧客の嗜好性が国や場所によって大きく異なります。このことは、トマトひとつとっても世界中で数百もの品種が同時にビジネスとして存在できることを意味します。この場合は、地域ごとに区切られる特性に精通した専門家によるチーミングが有効だと思うのです。例えば、アメリカで研究する人材を日本チームに加える意義が出る場合はそう多くありません。
一方で、例として、最近話題の抗肥満薬を考えてみてください。まず、薬は全世界で同一品質の製品が供給されます。また、一定の人種差は存在するものの、肥満症の患者さんにとって、肥満症を改善したいというニーズは世界共通だと思います。よって、グローバルに通用する少数の抗肥満薬が求められており、その製品を研究開発するチームは、グローバル規模で作り上げた人的ネットワークからチーミングすることで、研究競争力が増すのではないかと思います。
"「創薬」と「製薬」で富山から世界へ"は富山くすりコンソの理念です。製品やサービスを世界の患者さんに届けるという結果としての最終ゴールにとどまらず、研究や開発の活動自体や人的ネットワークといった製品・サービスを生み出す過程にも適用される理念となれば、新たな技術革新やモダリティーの進化を取り込みながら、「くすりの富山」はますます存在感を強めるのではないかとの思いを深める今日この頃です。