小さなお子様でも飲みやすいミニタブレット製剤の開発 ~高精度で機能性の高いミニタブレット用杵臼の開発~

(手前)試作した3mm錠(ミニタブレット製剤) (奥)一般的な10mm錠(通常錠)
小児の服用を“苦痛”から“安心”へ
通常サイズの錠剤ではお子様が飲みにくく、薬を飲むだけで時間がかかり苦痛も伴います。
飲みこめず口の中に残っている。でもどうしても薬をあげなくてはならないという親の焦り。親子共々、心身ともに疲弊することが多々あります。
そこで富山県薬事総合研究開発センター(薬総研)では、直径2~3mmで飲みやすいミニタブレット製剤を提供し、苦痛や不快なくお薬と付き合えるように取組みをはじめました。

小児用医薬品をとりまく背景
国では小児用医薬品の開発を促進
我が国のみならず、世界各国において小児用医薬品の開発が取り残され、遅れているという課題が20世紀後半から継続して指摘されてきました。小児用医薬品は、いわゆる「Therapeutic Orphan(治療の孤児)」とも呼ばれており、臨床試験の負担が大きいことや市場規模が小さいことから開発が遅れていました。
このような状況を打開するため、国では2018年以降、PMDAによる支援、製造販売後調査の簡素化、研究支援体制の強化、薬価や法律の制度改正などを段階的に進め、企業の開発意欲と動機づけを高めています。2024年度薬価制度改革により、小児加算の拡充や新薬創出等加算の対象要件に「小児適応」が追加されました。
こうした改革により、2018年~2023年には小児適応関連の承認件数が237件に達し、国際共同試験も活発になってきましたが、一方で お子様が服用しやすい剤形のミニタブレットの普及は依然として海外より遅れています。
高機能ミニタブレット用杵臼を開発
富山県薬事総合研究開発センター(薬総研)と株式会社石金精機とで共同開発

■ ミニタブレットの打錠に最適な材質および表面処理を打錠シミュレーターを用いて選抜 ○有効性が認められた材質を用いてミニタブレット用杵臼(直径2mm)を開発
■ 規格はIPT-Bタイプ
■セラミック臼は水洗浄可能(酸・アルカリ洗剤使用可)
■ 株式会社石金精機(富山県富山市)より販売中。薬総研で試打が可能です
製品チラシはこちら

重量バラツキと打錠障害を改善

有効な表面処理法を検討するため、試作した杵臼の表面処理性能を数値化することで正確に評価し、より有効性の高い表面処理法を選抜し採用しました。
その結果、ミニタブレットの重量バラツキが抑えられ、打錠障害を防止できる「高機能ミニタブレット用杵臼」の開発に成功しました。
飲みやすいだけじゃない!ミニタブレット製剤のメリット
1.苦味発現の軽減
試作した芍薬甘草湯ミニタブレット製剤と市販顆粒剤(OTC)について、希釈液に投入後、一定時間経過後の溶液を回収し、味覚センサにて苦味を定量し比較しました。
結果、口に含んだ際の苦味発現(先味および後味)を抑えられ、従来の顆粒剤よりも飲みやすい剤形として服薬アドヒアランスの向上が期待できます。

2.簡易懸濁法での調製時間を短縮
経鼻胃チューブ、胃ろう、腸ろうなど経管投与を受けている患者さんがお薬を服用する際に、簡易懸濁法(かんいけんだくほう)が用いられています。これは、錠剤粉砕やカプセル開封をせずに、錠剤・カプセルをそのまま、あるいはコーティングに亀裂を入れて、お湯(約55℃)に入れ、崩壊・懸濁させて経管投与する方法です。薬総研で試作したミニタブレットは、通常錠よりもその調製時間を短縮化できることを確認しました。
開発ストーリー

この杵臼を開発したのは・・・
富山県薬事総合研究開発センター(薬総研)
製剤開発支援センター 製剤研究課
主任研究員
永井 秀昌 さん
■ きっかけ
もう 10 年ほど前になりますが、通常の錠剤よりも小さなサイズ、直径2~3ミリのミニタブレットを打錠するための杵と臼があるのを知って興味を持ちました。実は欧州では小児製剤の開発が早くから法制化されたこともあって、ミニタブレットは飲みやすい剤形として注目されていました。そこで、まずは海外製の市販杵臼を取り寄せて試すことから始めました。これは先端に複数のチップがあるタイプの杵臼で、一度のプレスで複数個のミニタブレットを同時に成形できるので生産効率は高いのですが、実際に薬総研で試作してみると、特に漢方エキス製剤などでは「重量バラツキ」や「打錠障害」が発生しやすいことが分かってきました。
■ こだわりを形に
欧州だけでなく日本国内でも製薬企業さんにミニタブレット製剤の開発・製品化を目指してほしいと思っていたので、こうした品質面での課題をなんとか解決できないかと取り組むことにしました。着目したのは杵臼の精度向上です。高精度な杵臼を開発することで、最適な品質のミニタブレット製剤を安定的に製造できるのではと考えました。実は富山県はとても製造業が盛んで、高度な工業技術を有する企業の集積地となっています。ミニタブレット用杵臼の開発は、富山市にある株式会社石金精機さんからの提案を受けて一緒に取り組むこととなりました。この企業は精密部品加工に優れた技術を持っていて、極めて高い品質と精度が求められる航空宇宙分野の部品製造も手掛けています。

■ 今後の展開
薬が飲めず困っているお子様や親御さんが快適に暮らせるようミニタブレット製剤の普及を目指します。そのためにはミニタブレット杵臼をご活用いただける製薬企業様を探しています。ミニタブレット杵臼は株式会社石金精機(富山県富山市)より販売中ですので、お気軽にお問合せください。
(製薬企業様向け)高機能ミニタブレット用杵臼の「試打」ができます!
薬総研では、製薬企業等の皆様の製剤開発、医薬品試験等にご利用いただくため、施設・設備を開放しています(有料)。

錠剤機(ロータリー式)
12個の臼と杵が回転盤に取り付けられており、回転盤が一回転するごとに、充填、圧縮、抜圧、排出を連続的に行い、錠剤を製造する装置です。最少は100gの粉体の打錠から、最大で2万錠/時の打錠まで対応しています。
○メーカー名:(株)菊水製作所
○型式 :VELA5 0312SS2MZ
○導入年 :平成22年度
○仕様 :【杵立数】12本立(IPT-Bタイプ)
【臼形状】直径:30.15mm、臼厚:22.22mm
【最大圧縮圧力】予圧:5kN 本圧:25kN
【回転盤回転数】0~40rpm
【最小仕込量】100g
【付属部品】撹拌フィードシュー、錠剤粉取機(ルミナー)、集塵機
※キー溝加工があるため異型錠の打錠も可能
○料金 :1時間あたり3,170円(R7.4.1現在)
※使用者が富山県外の事業者の場合、使用料は原則上記金額の1.5倍(10円未満切り捨て)
○薬総研のホームページはこちら
News & Events
■ 学会・シンポジウム・セミナー等イベントでの発表
BioJapan 2025, 2025.10.8-10(神奈川県横浜市)「小さなお子様でも飲みやすいミニタブレット製剤」
関西バイオビジネスマッチング2024, 2025.1-2(オンライン)
BioJapan 2024, 2024.10.9-11(神奈川県横浜市)
第26回インターフェックスジャパン, 2024.6.26-28(東京都江東区)
関西バイオビジネスマッチング2023, 2024.1-2(オンライン)
T-Messe 2023 富山県ものづくり総合見本市, 2023.10.26-28(富山県富山市)
BioJapan 2023, 2023.10.11-13(神奈川県横浜市)
関西バイオビジネスマッチング2022, 2023.1-2(オンライン)
令和4年度 薬事総合研究開発センター研究成果発表会, 2022.11.21(富山県射水市)
フォーラム富山「創薬」第56回研究会, 2022.11.8(富山県富山市)
BioJapan 2022, 2022.10.12-14(神奈川県横浜市)
■ テレビ・新聞・書籍・Web等各種メディアへの投稿、報道
富山くすりコンソ メールマガジン KTT通信 Vol.44「研究者インタビュー・小児や高齢者が飲みやすいミニタブレット製剤を目指して」 2025.2.5
TONIO WEB情報マガジン「第45回 株式会社石金精機:工作機械等の精密部品作りから航空機、医薬品機器にも視野を広げて」 2024.3.12
※記事のなかで本研究テーマの取組みが紹介されています(国内向け小児用打錠機開発の試み)。
北日本新聞「小児用製剤金型を開発 県薬総研 ミニタブレット拡大へ」 2022.8.18
富山新聞「小型薬専用金型を開発」 2022.8.4
研究テーマに関心のある方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。: