
国立大学法人 山梨大学 副学長(医療・学術研究・産学官連携、グローバル推進)
令和5年度からリニューアルして実施している富山くすりコンソの研究開発補助金「実用化総合支援プログラム」。コンソの研究支援チームが研究者と伴走し、協力しながら実用化のゴールを目指しています。このプログラムでは、年に2回、研究評価委員会が開催され、進捗状況の確認と評価が行われています。今回は、その研究評価委員会で委員長をお務めいただいている岩﨑 甫先生にお話しを伺いました。
(聞き手/富山くすりコンソ事務局・高森)
※今回はインタビュー内容をくすりコラムとしてお届けします。
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― まずはじめに、これまでの富山くすりコンソの取り組みについて、岩﨑先生の率直な印象をお聞かせいただけますか?
私がこの富山くすりコンソ・プロジェクトに関わったのは、5~6年ほど前からでしょうか。本当に意味のある、とても面白い取り組みだと思っています。富山県は「くすりの富山」として知られていますが、このプロジェクトでは地域の大学と医薬品産業界、そして行政機関である富山県が一緒に手をたずさえて、一体となって頑張っておられますよね。
私は富山くすりコンソでは「研究評価委員」として大学の研究に助言するという立場で関わっていますが、各研究テーマの内容は創薬のみならず、医薬品の効率的な生産方法や製造技術の高度化なども含め様々な取り組みがあり、そこには富山の医薬品産業の振興、発展を目指そうとする強い思いが感じられます。さらに言えば、このプロジェクトでは大学の研究支援のみでなく、今後の富山の医薬品産業を支えていく専門人材の育成プログラムにも注力している。近年、日本国内でも地域の産学官が連携した取り組みが色々と行われるようになりましたが、富山くすりコンソは、まさしく「くすりの富山ならでは」という地域の特色を活かしたチャレンジです。ぜひとも頑張っていただきたいと思っています。
― 富山くすりコンソに関わっていただくこととなったきっかけは、コンソの事業責任者である森和彦さんとのつながりとお聞きしています。
森和彦さんと最初にお会いしたのは、医薬品の承認申請について相談に行ったときですね。その当時、私は外資系の製薬会社にいて、森さんは厚労省で承認審査業務を担当していました。規制当局側におられた訳ですが、それを乗り越えた大きな視点でいつも物事を見ていて、必要なことを適切な表現で伝えてくれるのが印象的でした。
特に思い出深いのは、私が欧州系の製薬団体のまとめ役のような立場で抗がん剤治療の効果に関する評価の仕組みを相談した時のことです。当時の日本の仕組み、考え方というのが欧米に比べると随分遅れて大きな差がついてしまったと感じていました。森さんはそんな私の話をしっかりと受け止めてくれて、最終的には関係者が集まって話し合う場、そういう会議体を設けることになったんです。その会議体は今も続いています。
実は、森さんが富山出身だとはコンソの話をお聞きするまで知りませんでした。色々と多忙ななかでも富山のことに一生懸命取り組んでおられるのは、地元愛だろうと思います。
― 元々は外科医だった岩﨑先生が、製薬会社で医薬品開発に取り組むことになったのは、どのようないきさつがあったのでしょうか?
医学部卒業後は大学病院で消化器外科医として勤務していました。当時は拡大根治手術といって、癌がある部分以外の周辺部も含めて広く取り除いて完治を目指すという手術方法が世界的にも主流で、私もこの手術法を修練すればきっと患者さんの役に立てるだろうと、そう信じて手術に向かっていました。ですが、なかなか期待されているほどの結果に結びつかないことが段々と分かってきて、手術だけで治すことに限界を感じるようになりました。
ちょうどその頃に、製薬会社に勤務するドイツの友人から、医薬品の開発を手伝わないかと声をかけられたんですね。最初は、外科医として治療の現場から離れるわけにはいかないからと丁重にお断りしました。けれども、それから1年間くらい繰り返し連絡を受けた記憶があります。よく聞いてみるとドイツでは製薬会社の医薬品開発部門に医師がいるのは当たり前。一方、当時の日本ではそういうポジションには医師は見当たらなかったので、とても驚きました。最終的には、今までとは別の方法で患者さんの役に立てるならばと決心して、製薬会社で創薬にたずさわることになりましたが、これは私の人生にとって大きな転換点のひとつになりました。その後、製薬会社で多くの貴重な経験をさせていただいた訳ですが、幸いにもまた大学に戻るという機会を頂戴して今に至っています。
― 今、日本では国を挙げて、大学などのアカデミア創薬の活性化やバイオベンチャーの育成支援に力を入れています。
背景には医薬品の圧倒的な輸入超過という現状があります。そして、様々な新規モダリティの実用化や、AIなど情報工学の活用などを受けて、従来のように製薬会社1社で医薬品開発を完結することが難しくなってきました。特に、新しい創薬シーズを見出すために、大学や公的研究機関などのアカデミアの役割が重要になっています。アカデミアが見出した新しいシーズを上手に育てて、最終的には製薬会社が患者さんへ届けるというのは、今や当たり前のプロセスになっています。
ご存じのとおり、アメリカなどではバイオベンチャーが非常に成長していて、製薬会社よりも多くのシーズを創出しています。それを製薬会社が購入して世に出すという仕組みです。ビジネスが創薬の活動の原動力のようになっているというのはちょっといかがなものかという感じもしますが、アメリカらしい話です。とはいえ、日本でもアカデミアの先生方が頑張って新しいシーズを見つけながら創薬を進めることが必要なのだと思います。
このような医薬品開発の世界的な流れのなかで、今、日本が国を挙げて取り組んでいる創薬力強化の方向性があり、それが全くの国頼みばかりではなくて、くすりの富山県では地域の産学官が一体となって頑張っている。医薬品の歴史と伝統、産業の集積という強みを活かして特色のある取り組みを展開している。そういう意味で、私はこの富山くすりコンソ・プロジェクトの試みというのは非常に面白いと思っていますし、貴重なものと感じています。
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(後編へ続く) ※後編は近日掲載予定です。