機能性食品で健康被害が起きると誰が予測できたでしょうか?
医薬品の品質保証で一番重要なことは、「品質問題で健康被害を起こさない」ことです。そのためにそれを第一優先で対応します。このケース三つの疑問を持っています。
疑問①小林化工への厳しい処分に対し、小林製薬には厳しい処分がいまだにない
2024年6月28日 ニュースリリースより(小林製薬のHPより)
「お亡くなりになったとのお申出」で76例が調査継続とのことです。その後も増えています。もし死者数が5人から増えたら、大変な事故/事件です。米国バクスター社製のヘパリン製剤に中国産原料から非ヘパリン物質が入り、死者が80人以上だった健康被害に匹敵します。またグリセリンにジエチレングリコールが入って、パナマ、インドネシアなどでの死者数は数百人と言われています。
大阪市は3月27日、小林製薬に対して自主回収の対象となっていた3つの製品について、食品衛生法に基づき、製品の回収を命じる行政処分を出しました。6月28日(金)の武見厚労相の記者会見では、小林製薬に対する行政処分は現時点では考えて無く、すべて調査報告がでてから考えるとのことです。一方で、医薬品では、最近、水虫薬に睡眠誘導剤が混入して健康被害が起きています。
令和2年度第3回医薬品等安全対策部会資料1-7(令和3年3月12日)より
イトラコナゾール錠50「MEEK」(製造販売元小林化工株式会社/販売元Meiji Seika ファルマ株式会社)に睡眠誘導剤の成分であるリルマザホン塩酸塩水和物が混入。混入量は1錠あたり5mg。
当該ロットの製剤を処方された患者 344 例のうち、服用患者は 324 例、健康被害※が認められたのは 245 例(3月8日時点)。ふらつき、めまい、意識消失、強い眠気等が生じているほか、これに伴う自動車事故や転倒についても報告あり。3月8日時点で、245 例のうち、自動車等の車両運転時の事故例 38 例、救急搬送・入院例 41 例、死亡例2例(死亡との因果関係は不明)
小林化工株式会社に対する医薬品医療機器法に基づく行政処分を福井県が行いました(令和3年2月9日の厚労省Press Releaseより)
処分内容
○ 業務停止命令:116 日 ※ 同社の他工場に対しても、60 日間の業務停止命令
この処分を受け、製造所は再開することなく、小林化工の生産設備及び関連人員はサワイグループに引き継がれています。小林製薬の事例は、まだ被害状況は調査中ではありますが、小林化工の事例より、被害が大きくなる可能性があります。小林製薬の事例と同じ食品業界では、2000年6月に起きた雪印乳業食中毒事件での死者は1人でした。この事件で、雪印メグミルクの子会社、そして吸収合併され、会社名は消えました。きちんと責任を取らせることがないと反省と改革が不十分になります。
疑問②機能性食品に医薬品成分が入っている
紅麹サプリメントに含まれるモナコリンKという有効成分は、米国メルク社が「ロバスタチン」医薬品と成分と同じです。医薬品成分なので、コレステロール低下に効果があるのは当然です。でもなぜ医薬品の成分が機能性食品であれば、医師による指導、健康被害の報告制度がなくてもよいのかが疑問です。
「紅麹コレステサプリ」の表示;
召し上がり方 1日3粒を目安にかまずに水またはお湯とともにお召し上がりください。
摂取上の注意 1日の摂取目安量を守ってください。
⇒これでは目安を超えて摂取した場合のリスクがないです。また目安なので、医薬品の用法用量より管理が甘いです。医薬品は厳しいのに食品になると甘くてよいのでしょうか。
疑問③小林製薬はもっと早く、製品回収並びに摂取中止ができなかったのか
1月15日(11日との報道も)に1例目、1月31日に2例目、2月1日に3例目の報告が寄せられ、いずれも安全管理の担当者が医師のヒアリングなどへ動いたそうです。これが事実とすると、あまりにも対応が遅いです。健康被害は待ったなしです。1例目で動くのは判断が難しいですが、できれば2例目で、遅くても3例目では即被害拡大防止に動くことです。
「孟母三遷の教え」はご存知かと思います。孟子の母はとても優秀であったという逸話の一つです。
あるとき、近所の一人が来て孟母に「あなたのお子さんが人を殺した」と言った。孟母はそんなことがあるはずないと子どもを信じて不安にもならずに動かなかった。二人目が来て孟母に「あなたのお子さんが人を殺した」と言った。孟母は不安になったが動かなかった。三人目が来て孟母に「あなたのお子さんが人を殺した」と言って来た。孟母は仕事を放りだして、外へ駆け出した。
それは間違った情報だったが、偉いと言われている孟母でさえ、三度同じ情報が寄せられるとビックリして慌てるということです。健康被害は仮にそれが間違っていても慌てていただきたいです。三度もあれば回収&摂取停止を直ぐに行うことでした。
考察;
「事実検証委員会の調査報告を踏まえた取締役会の総括について」(2024年7月23日 小林製薬株式会社 取締役会)の報告が公開されました。
②紅麹を培養するタンクの蓋の内側 に青カビが付着していたことがあり、その旨を品質管理担当者に伝えたところ、当該担当 者からは、青カビはある程度は混じることがある旨を告げられたことがあること、
⇒品質管理/品質保証にとって一番重要なことは、3ゲン・5ゲンです。現場をよく知ること、現場の声がQA&QCに上がる仕組みであり、実際に上がっていることです。かつ現場の人がQA&QCを信頼して上げているかです。時々、「逸脱が少ないので問題ないと思っていた」とうそぶくQA長や工場長がいますが、本当にそう思っているなら物造の責任者から即降りることです。少ないのではなく、上がっていない問題の方がより大きな問題です。責任者は、問題が上がっているかどうかを常に確認しておくことが必須です。
大切なことは、問題を起こした会社を責めることではなく、その会社が行った問題行動から学び、同じ失敗を繰り返さないことです。そのためには問題を明確にし、何が不適切だったかをしっかりと理解することです。自社にも同じような問題を抱えていると謙虚になることです。ところが雨後の竹の子のように多くの会社が、①承認書齟齬、②GMP不正、③GMP不備が指摘されています。なぜ他社の失敗から学ばないのでしょうか?
PMDAや県の無通告査察でも「ごまかそう」としている製造所もあります。ある製造所では、今回は嘘で上手く行けたが、次回の査察ではもうごまかすのは無理だから、帳簿のつじつまを合わせるように指示があった、との内部告発もあったようです。当局もなめられたものです。先ずはもっと謙虚に、正直に、そして私たちの品質保証の力を高めたいです。そのためにも、他社の失敗事例から学びたいです。