
「製薬企業には薬剤師が必要だ。」
…このコラムを読んでいる皆さんには、当たり前のことで何の違和感もないかもしれません。しかし、非常に残念なことに、いまの薬学部の学生さんにとって、薬剤師になった後の進路として製薬企業はメジャーとは言えないようです。
(一社)薬学教育協議会の調査によれば、2024年3月に全国の薬学部6年制課程を卒業した方のうち、医薬品関連企業に就職したのは7%程度でした。富山大学薬学部薬学科(6年制)の就職状況においても、保険薬局で57%、病院で30%に対し、企業に就職する学生さんは7%だそうです(令和6年度)。
法令上、総括製造販売責任者や製造所ごとの製造管理者は薬剤師を配置しなければなりませんし、さらに将来を見据えて、次の責任者、次の次の責任者、次の次の次の…の育成も必要なので、製薬企業の中ではある程度の数の薬剤師がいなければなりません。「くすりの富山」を形作る約80社の県内製薬企業で薬剤師を確保する、これは富山県にとって大きな課題となっています。
申し遅れましたが、私は富山県厚生部薬事指導課長の岩瀬怜と申します。薬事指導課では、薬機法等に基づく薬事監視・指導に加えて、県内での薬剤師確保を重要なミッションのひとつとしています。県では以前から薬剤師確保のため、中高生向けの「薬剤師お仕事体験学習」や「未来の薬剤師発掘セミナー」などを行ってきました。
そのような中で、富山大学薬学部において、富山県内における薬剤師供給不足解消に貢献するため、令和6年度の入学者選抜から、県内高校出身者を対象とした「地域枠」を創設していただけることになりました。国立大学薬学部における地域枠は、全国でも初のケースです。そして県としても、大学側の取組みを受け、地域枠生に対し財政的な支援をすることとし、「富山県地域薬剤師確保就学資金貸与制度」を開始しました。
この制度では、地域枠で富山大学薬学部に入学した学生全員に、入学料・授業料・修学費として6年間合計で約709万円を貸与し、卒業後、薬剤師として県内の製薬企業、公的病院または行政で9年間従事すれば返済が不要となる、というものです。
類似の制度は、全国の医学部地域枠で行われており、薬学部においても、宮城県や茨城県が富山に続いて導入を予定しています。しかし、卒後の従事先として病院だけではなく、製薬企業を設定しているのは、「くすりの富山」ならではの特徴になります。
本制度に参加を希望している県内製薬企業は、既に30社を数えます(県HPで一覧を公表中)。それだけ、薬剤師に対する需要が高いのと同時に、地域枠と奨学金制度による県内定着に期待していただいているのだと考えています。
さて、今後の課題のひとつは、地域枠生に、如何に製薬企業を進路として選んでもらうかになっています。進路の選択肢として、公的病院と行政に加えて製薬企業を設定しましたが、そのうちのどれを目指すかは、学生の進路選択に委ねられます。結局、みんな病院薬剤師を目指してしまっては、目的の半分しか達成したことになりません。
富山大学では、「地域創生型カリキュラム」と呼ばれる教育プログラムにより、地域での薬剤師キャリアへの深い理解を促進することとしています。例えば、県内製薬企業による企業紹介(製薬企業概論)や県内製薬企業へのインターンシップ(企業薬剤師育成学)といった課目が必修で組み込まれており、学生たちが、企業薬剤師という仕事や、県内製薬企業の特色など学んでいくことができると聞いています。県でも、薬学部在学中の6年間を通じて、自分の将来の可能性として、県内製薬企業のことをよく知り、深く考える機会を作っていくため、富山大学と協力して取り組んでいきたいと考えています。
ここまでは、くすりコンソとは直接関係のない話になってしまいましたが、「くすりの富山」あるいはToyama Pharma Bayを支える専門人材の確保というミッションは、くすりコンソと共通するものです。くすりコンソの「ネクスト・ファーマ・エンジニア養成コース」(NPE)は、薬学生のみならず、広く理工系学部を対象としていますが、創薬、製剤、バイオ医薬、和漢薬など充実した専門講座や県内製薬企業の若手社員との交流など多彩なプログラム、そして現地企業見学体験会など、薬学部生・地域枠生にとっても、魅力的で非常に価値ある経験となることは間違いありません。このような機会を通じて、多くの薬学部生が、県内製薬企業で自分が活躍する未来像を胸に描いてもらえれば嬉しいと思っています。
地域枠と奨学金制度をはじめ、薬剤師確保対策を総合的に議論するため、県では関係者・有識者の皆さまにお集まりいただき、「薬剤師確保対策推進協議会」を組織し、その座長には、くすりコンソの事業責任者である森和彦さんに就いていただきました。この会議では、薬剤師の確保についてなるべく多角的なデータをお示しするとともに、様々な薬剤師確保の取組みについてご議論いただいています。県のHPで会議資料をすべて公表していますので、もしご関心があれば、是非ご覧ください。
そして最後になりましたが、県内製薬企業の皆さまに一言お伝えさせてください。富山大学薬学部の「地域創生型カリキュラム」や、くすりコンソの「ネクスト・ファーマ・エンジニア養成コース(NPE)」、また、薬事指導課で実施している各種薬剤師確保の取組みには、インターンシップ等への学生の受け入れや、セミナー、講義などへの講師の派遣など、のご理解とご協力が不可欠となります。本コラムをご覧になった、そこの関係者の方! 何卒ご協力のほど、どうかよろしくお願いします。
<ご参考>