2025.05.12
気概をもって、社会に向き合う

私とライフサイエンス業界との関わりは、昭和61年に武田薬品工業に入社したことに始まります。そこから早期退職するまでの30年、経営改革の渦中にもがきながら、企業広報と医療用医薬品のマーケティングPR(製品広報)の実務に取り組み続けてきました。独立し、専門事業者としての客観的な視点も踏まえ、当コンソーシアム事業における「Public Relations」の重要性についてお伝えしたいと思います。

自分たちは何のために存在しているのか

「Public Relations(以下、PR)とは、組織体(企業・団体)とその存在を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である*」

このPRの概念については、すでに多くの方が認識されているだろうと思います。社会と共存する自分たち(組織体)を取り巻く課題は何か、その課題を解決するためにステークホルダー(各パブリック)との良好な関係性が自分たちの存在価値を高めることは言うまでもありません。さらに私たちは、生命関連製品の情報を扱う一員であり、国民の健康のため、世界の患者さんのために日々の業務があります。

そして、当コンソーシアムが担う役割には必然的な背景があります。300年を超える医薬品産業の歴史と伝統を有する富山県には、医療用新薬、後発、大衆薬、原薬メーカーなど約80社と100を超える製造所が集積し、あらゆる製剤、原薬・中間体、治験薬の受託が可能で、容器やパッケージング、印刷・包装などの周辺産業も充実しています。このような都道府県は、富山以外にありません。だからこそ、気概をもって取り組む意義があります。

相手のために動く

先日、東京で開催された製薬産業向けのイベントに参加しました。聴講したパネルディスカッションではパネリストの製薬企業人からリアルな課題を聴くことができました。そのなかで私が印象に残ったワードを記述します。

●組織のサイロ化 

●曖昧なデジタル業務の定義 

●顧客起点(情報提供する相手をよくわかっているか)

●原点回帰(何をすべきか、何を届けるべきか)

●対話のスキルトレーニング

AIとの協働が進み、生産性の向上や働き方改革が高まる一方で、浮き彫りになった課題はどれも人間同士のコミュニケーションが関与しています。

PRにおける基本行動は「相手のために動く」こと。言い換えれば、「他者へのサービス精神、利他主義」です。時代が進化して人間同士の関係性が希薄になって、物事がよい方向に進むでしょうか。ましてや私たちは、生命関連製品の情報を扱う一員です。

産学官連携の当コンソーシアム「富山くすりコンソ」は、コミュニケーターという重要な役割も担っていると感じてなりません。

メディア・リレーションズの真意

PRの主軸となる活動の相手は、社会の代弁者である報道記者です。報道記者は、どの組織体(企業・団体)とも利害関係を持ちません。だからこそ、報道に選ばれて自分たちの取り組みが社会に認知されることがレピテーションのステップです。

私がPRの実践者として活動してきたなかで、「新野さんにお願いすれば、広告的記事を書いてもらえるのでしょうか」という質問をいただいたことがあります。このような質問をされるのは、報道記者がどんな人であるかを知らず、物事を動かすスキルの高い人に多い傾向があります。PR担当の役割は、良質な報道につなげるための活動をすることに尽きます。その活動の先に良質な報道の実現を目指します。報道が出た後も、次につなぐための継続した活動が続きます。前述の「相手のために動く」基本行動の繰り返しの先に創出・維持される信頼関係の真意は、良質な報道の実現に向けた報道記者へのヒアリングであり、自分たち(組織体)が予期せぬ出来事に遭遇したときに迅速な対応ができるようにするための危機管理であることを、私自身も日々のなかで立ち止まり、原点回帰しなければならないと思っています。

社会は課題にあふれています。自分たちの一方的な情報発信だけで報道記者(社会)は振り向きません。富山県の基幹産業「くすりの富山~Toyama Pharma Bay」だからこその気概をもって、共に社会に向き合っていきましょう。どうぞよろしくお願いいたします。

*出典 『体系パブリック・リレーションズ』

スコット・M・カトリップ、アレン・H・センター、グレン・M・ブルーム共著、日本広報学会監修