2023.07.18
窮屈な世の中になったもので...

 私がこの業界に入った頃は日本のGMPの黎明期でした。エラく窮屈な仕組みが外国から入ってくるようだけれども日本のモノ作りは世界に冠たるものがあるので当分関係ないと思っていました。当時バイエルが作るアスピリン錠は日本で生産した物が世界で最も品質が優れていると称揚されていたものです。GMPの考え方からして、性悪説に立って作業員が良からぬコトをするという前提が気に入らなかったのです。また当時はまだ医薬分業が導入される前で、町のお医者さんには調剤室があって、乳鉢で粉薬を混ぜて薬包紙や簡易の分包器で1回分ずつに分けて薬袋に入れて貰っていました。今で云う製剤均一性試験もへったくれもないユルい世界で暮らしていたものです。

 大きな変化があったのは2005年の薬事法(薬機法)大改正です。製造販売承認申請書の記載内容が厳密になり、局方の試験法も厳しくなりました。各社、申請時の意気込みはよかったものの、自らに課した高いハードルをクリアするのに四苦八苦する羽目に陥ります。それでもしばらくの間は製造現場の匠が何とか工夫を凝らして 製品をお守りしてくれていたのですが、やがて現場の世代交代が起きるとリスクが顕在化して品質問題に悩まされる、そんな状況が散見されるのが昨今の状況ではないかと思います。

 冒頭の時代は1回当たりの薬用量が数十ミリグラムでしたが、今や数マイクログラムの薬も珍しくありません。品質保証の厳格化も已むを得ない事と思います。そうなるとやっぱりここは製剤設計の段階からリスクに基づいた配慮が必要でしょう。かつて申請書で「日本薬局方の製剤総則『錠剤』の製法に従って製し…」と云って済ませていたような訳にはいきません。Preformulationの段階から製剤のリスクを考慮したQuality by Designの考え方で実用上安全な品質を作り込んで、正しく製造する事が求められています。

 富山くすりコンソではこんな製剤設計を支援すべく、今後も積極的に研修会やワークショップ等を提供していきます。皆さんの積極的なご参加をお待ちしております。

 薬機法大改正からしばらくして富山薬連のバーゼル視察団に同行しました。製剤学の世界的権威であるバーゼル大のHans Leuenberger先生が、「製剤設計は職人芸で、処方を見れば誰がどの錠剤を作ったかが判る。けれどこれからは科学的根拠に基づいた製剤開発が必要だ。」と当時述べておられましたが、ほどなくして製剤設計のガイドライン(ICH Q8)が発出されました。また我々が訪問する少し前に先生は連続生産の概念を発表されており、これもICH Q13となって今年5月31日付で日本でも通知発出となったのも感慨深いものがあります。

 このコラム、ここからしばらくは富山県薬業連合会のメンバーで繋いでいくことになりました。

 次回はこのバーゼル訪問でご一緒した救急薬品工業の稲田裕彦社長にお願いします。

 稲田社長は富山薬連の国際交流委員長ですが、当時から幅広いビジネス展開を念頭に積極的に活動しておられました。

 では稲田社長、よろしくお願いします。