2025.03.18
【特別インタビュー】~未来を拓くチャレンジに向けて~(後編)

国立大学法人 山梨大学 副学長(医療・学術研究・産学官連携、グローバル推進)

岩﨑 甫 先生
Masaru IWASAKI, M.D. & Ph.D.  1973年 東京大学医学部医学科卒業. 附属病院第2外科入局. 1983年 山梨医科大学第2外科. 1993年 ヘキスト・ジャパン(株)臨床開発本部. 2005年 グラクソ・スミスクライン(株)開発本部・本部長. 2011年 山梨大学大学院医学工学総合研究部 臨床研究開発学講座 特任教授, 厚労省 早期探索的臨床試験拠点整備事業 プログラムオフィサー. 2015年 山梨大学 副学長(融合研究臨床応用推進センター長, 大学院先端応用医学講座特任教授併任). 2015年 AMED 革新的医療技術創出拠点事業 プログラムオフィサー. 2019年 同 プログラムダイレクター. 2020年 AMED 医薬品プロジェクト プログラムダイレクタ―.  ※2021年度より富山くすりコンソ研究評価委員会 委員, 2024年度より同 委員長

令和5年度からリニューアルして実施している富山くすりコンソの研究開発補助金「実用化総合支援プログラム」。コンソの研究支援チームが研究者と伴走し、協力しながら実用化のゴールを目指しています。このプログラムでは、年に2回、研究評価委員会が開催され、進捗状況の確認と評価が行われています。この研究評価委員会で委員長をお務めいただいている岩﨑 甫先生への特別インタビュー【後編】をお届けします。

(聞き手/富山くすりコンソ事務局・高森)

※今回はインタビュー内容をくすりコラムとしてお届けします。

― 日本が今、国を挙げて創薬力強化に取り組んでいるなかで、大学や公的研究機関などのアカデミアの果たす役割が重要になっているということでした。岩﨑先生は、臨床経験のある外科医から製薬会社の医薬品開発責任者を経て、今は再び大学へ戻って医薬研究の充実に取り組んでおられます。そういった視点から、アカデミア創薬の活性化についてどのようにお考えでしょうか?

日本のアカデミアの先生方は、ご自分の研究成果が社会実装されて、社会の役に立つことを願って研究に取り組んでおられる方が多いように思います。ある意味、科学者としての崇高な目的意識といいましょうか。それが日本の特徴なのかもしれません。アメリカのように、ビジネスが創薬の原動力になるようなことはあまりない。アメリカのバイオベンチャーではアカデミアの創薬シーズを開発することで、それがビジネスとしていくら儲かるのかという非常に分かりやすいモチベーションを持ってやっていて、そこへベンチャーキャピタルが投資をして研究を支援し収益を得ることを目指す。そうしたビジネスの仕組みが成り立っています。

それに比べると日本のベンチャーキャピタルは弱い、というような言い方をされることもありますが、それ以前に研究者の意識の違いがあるように思います。日本の先生方はビジネスとしての成功よりも、ご自分の研究を前に進めて社会の役に立つ研究成果を生み出したいという意識のほうが強いように感じます。

私が時々、日本のアカデミアの先生方にお伝えするのは、今研究しておられる創薬シーズは日本国内の患者さんだけが対象なのではなく、同じ病気で悩んでいる世界中の患者さんを救える可能性を持っているということです。志を高く、世界を視野に研究に取り組んでいただきたいと思っています。

― AMEDの医薬品プロジェクトのプログラムダイレクターとして、数多くの創薬シーズを目にする機会があると思います。成功確率が低いとされる創薬研究において、アカデミアの研究者はどのような点に注意すべきと思われますか?

確かに創薬というのは非常にチャレンジングな取り組みで、取り組んだからといって必ず成果が出るようなことはありません。そのなかで、アカデミアの強みは新しいシーズの創出にあると思いますが、それをどのようにして実用化のゴールに向けて着実に進めるか、そのための実用化までのプロセスを理解する必要があります。創薬のゴールというのは、患者さんに届けることだと思うんですね。そこに向かって、どういうプロセスを経ていく必要があるのか、その観点を身に付けることが一番大事なことだと思います。

また、新しいシーズを見つけたとしても、新しい医薬品になる価値をもっているかどうか最初は分からないものです。そこで、様々な観点から批判的な目で見ながら育てていくような取り組みが必要になりますが、どうしても見つけたシーズの魅力に取り付かれるというか、批判的な目で見るのが難しくなる場合が往々にしてあります。我が子がかわいいという感覚に近いかもしれません。せっかく見つけたシーズだからと、大事にしすぎて我が子のようにかわいがる。そうすると、結果的に焦点の定まらない研究になってしまうことがあります。

― 富山くすりコンソでは、アカデミア研究者による実用化に向けた研究を、経験豊富な専門家が伴走支援する「実用化総合支援プログラム」を実施しています。

研究者が実用化のゴールに向けた適切な研究プロセスを学ぶのに、実例に取り組むことができるというのは貴重です。一般的な総論を座学でやるのは簡単ですが、具体的な事例にぶつからないと現実の難しさは分かりません。非常によい経験の場が用意されていると思います。実用化への道のりは、おそらく多くの研究者にとっては“未知の世界”なので、自分自身で一から調べて考えて頑張らなきゃならないのはさすがに大変です。富山くすりコンソが伴走的に支援しながら研究の取り組みを進めておられるのは、研究者にとってもありがたい仕組みと思います。支援を受けながら経験できる仕組みはそうそう作れるものではありません。例えば、知らず知らずのうちにせっかくの機会を見逃していたり、失礼な言い方かもしれませんが、実はたいしたものではないのに時間と労力を費やしていたり。コンソの支援で、そういう無駄を減らしながら進めることができます。

ですが、無駄が悪いとは私は思っていません。無駄は結構大事です。そうしないと分からないことがあります。無駄だったものも大事な情報でそこから教えられることがあります。ただ、やはりわざわざ随分と遠回りしながらというのは、さすがにちょっともったいないですから。補助金として支援される研究費も研究に費やす時間も有限です。大事なところに集中させないと。

― 最後に、「くすりの富山」へメッセージをお願いします。

富山くすりコンソ・プロジェクトに関わるまでは、あまり富山へは伺うことはなかったんですね。こういうご縁をいただいて、北陸新幹線に乗車して富山へ来させていただいた。随分と東京に近いなあと驚いた記憶があります。

富山の頑張りにとても期待しています。地域全体の取り組みとして、このように頑張っているケースはあまり多くないと思います。日本のあちこちで、こうした産学官連携をやろうという機運は高まっていますが、現実的にそれを仕組みとして組織立ってやっている地域はそんなにないんですよね。富山の取り組みに敬意を表します。

医薬品の分野では、そんなにすぐに結果がポンポンと出てくるわけじゃないっていうのはもちろんです。けれども、やらなければ絶対に出てこないので。だから、そう簡単ではないけれどもチャレンジするっていうことは素晴らしいことです。医薬品の歴史と伝統を持っている。産業も集積している。産学官連携も頑張っている。これだけ良いポテンシャルがそろっているのだから、「くすりの富山」はまだまだ力を発揮できると思っています。

(了)

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